彼の支配力は恐ろしいです
案の定というべきか、屋上につくなり恐喝され弁当を根こそぎ奪われた。一食くらいなくても生きられるだろ、とはあまりにも横暴すぎやしませんか政宗くんよう。
「ん、」
ごちそうさまも言わずに弁当を返却される。そこには綺麗に平らげられたご飯たちがいた空虚なスペースと、取り残されたピーマンたち。…ピーマンが嫌いってこいつはお子様か?と茶々を入れてみたことがあるがその後笑顔でピーマンを無理やり口に詰め込まれたので最早注意する気も失せた。今思い出すだけで吐きそうになる。ぎゅうぎゅうと箸で喉奥まで突っ込む人間とは思えぬ所業…あれ、なんでわたしこいつの幼馴染やっているんだ?
仕方なく残飯処理に食べていると、政宗はコンビニの袋から苺牛乳を取り出す。意外や意外、政宗は甘いもの好きなのだ。こういうことを知っているのも仲間内くらいなんだろうな。女の子の前では見栄を張って飲めやしないコーヒーを我慢して買うくらいだから。
「…ちょっと政宗、それ」
「物ほしそうな顔しても上げねえぞ。これはおやつだ」
よくよくコンビニの袋を除けばメロンパンやアンパンなど詰まっているではないか。それを持っているにも関わらず人の弁当を奪うとは…こ、この悪魔!鬼畜!冷徹人間!といいかけるところをぐっと我慢して脱力する。いつものことだと思える自分が怖い。
「おお、そこにいたのか」
「幸村!」
「お前ら相変わらず仲いいのな〜、今日も愛妻弁当か?」
「…そう思える元親を殴ってやりたい」
ぞろぞろと屋上へ這い出たのは幸村、佐助、元親、慶次だ。政宗とつるんでいる固定メンバーである。そのせいですっかり顔なじみになってしまった。慶次に至ってはやれ恋バナを最近どうなの聞かせろだのやかましい。そんなものは断じてないというのに!
「あれ、また竜の旦那に食べられたんじゃないの」
「なんと!!政宗殿、またでござるか」
「うるせーな。お前には関係ないだろ真田幸村」
目ざとく佐助が指摘すると、幸村が憤慨して政宗に噛み付く。
「幸村って本当に優しいよね、政宗と違って」
「その生意気な口で何か言ったか」
「イイエナンデモアリマセン」
じろりと隻眼で睨まれてはひとたまりもない。降参の手をあげると、幸村が隣に座って自らの弁当をわたしに手渡す。ずっしりとした重箱に耐えつつ疑問の視線を幸村に投げかけた。
「はもう少し政宗殿に流されぬよう心がけたほうがいいぞ」
「気をつけます。ええとこれは?」
「次は体育でござろう?食べぬと力が出ないからな」
「…ゆ、幸村、いった…!」
感動して幸村を仰ぐと背中に一発の蹴りが入った。紛れもなく政宗の仕業である。文句を言おうと振り向くと目の前にやきそばパンが差し出された。わけが分からずにポカンと眺めているとそのままそれは膝に落とされる。
「そうやってすぐに人の施しに頼るのがてめえの悪い癖だ」
「えええ、それを政宗が言っちゃう?」
「いいから俺の気が変わらないうちに食えよ」
不機嫌そうにぶすっと政宗はカレーパンを口に含んだ。こういうぶっきらぼうな優しいところも昔から変わってない。だからわたしはまだこいつの傍を離れられないんだろうなあ。
ただ佐助が背中についた上履きの跡を払ってくれたときにやっぱり理不尽な男だとは思わずにはいられなかった。
(100502)