彼は極端な気分屋です


ここで少女漫画のようにヒロインが悶々と恋に悩むシーンを想像してはいけない。というか、そうさせてくれないのが政宗だったことを忘れていました。白くなってしまった制服を見てため息をつく。ドアの上から役目を終えた紙袋がおまけに頭へ落ちてきた。拾ってみれば大きく「小麦粉」の文字。

「…黒板消しくらいならかわいいものだけど、これは悪意を感じる…」

なるべく回りに粉を撒き散らせないようにそっと風呂場へ移動する。後で部屋を片付けておかねばなるまい。そう思うと憂鬱な気持ちになった。歩くたびに汚れていく廊下にますますへこんでしまう。
さすがにここにまでトラップはないよね。脱衣所のドアを確認してから中に入ると、違和感を覚えた。あれ…ボクサーパンツ?はて、父親はトランクス派だったぞ?目の前に落ちているそれに首をかしげる。まさかと思い、洗濯籠を覗けば案の定男子用制服があった。

ガラッ

そして折り悪くもちょうど後ろからドアの開く音。脱衣所のドアではない。風呂場のドアだ。さあ、と血の気が引く音がする。後ろを振り向くことが出来ずには固まった。

「Hey,そこで何をしてやがる変態女」
「…いえですね、あなたが仕掛けた罠にこうして引っかかりまして体を洗い流そうと」
「ほう?俺には着替えを盗もうとしているようにしか見えないんだがな」
「滅相もございません!」

ぽたぽた水が滴る音が妙にリアルで思わず生唾を飲み込んでしまった。う、後ろに全裸の政宗がいるというのか!いくら幼馴染で見慣れてきたとはいえ、改めて考えると緊張してしまう。

「そうか…だったら、get back here!!」

尻を蹴り飛ばされて脱衣所から追い出される。ひどい、横暴だ。女の子の尻を蹴るだなんて!そう叫んだらタオルだけ巻いた政宗に鳩尾を蹴られた。ひいい、見えそう、見えそう!違う意味で止めてくれと頼む。舌打ちをおまけにつけて政宗は着替えに戻ってくれた。
その後入れ替わりにわたしはようやくシャワーを浴びることが出来た。まだお尻がひりひりと痛い。さすりながら部屋に戻れば、人のベッドの上で政宗は寛いで雑誌を読んでいる。わたしは冷蔵庫にしまっておいたケーキの箱を彼の前に置いた。

「…なんだこれは?」
「政宗が好きなケーキ屋さんでわざわざ買ってきたんだよ」
「こんなことで俺の機嫌が直るとでも思ったか」

と、いいつつも嬉々として開け始める政宗。経験上、こうしてあっさりと次の日には元に戻ることを知っているのだ。これでまたしばらくは安寧とした学校生活を送れる。が胸をなでおろしたその矢先だ。

「……」

顔を思いっきり顰めて、政宗はそっぽを向き再びベッドに戻ってしまった。えっ食べないの?お腹でも壊した?驚いてケーキ箱を見て、しまったとうな垂れた。
そこには幸村の荒い運転で寄りに寄ってしまった無残なケーキの姿。政宗の機嫌を直そう作戦が失敗に終わったことを意味していた。


(100516)